サルトリア・チャルディの創始者であるレナート・チャルディは、アントニオ・パニコと並びナポリを代表するマエストロと言われた人物である。ナポリ仕立ての黎明期に、その歴史を作り上げた中心人物の一人だ。
しかしマエストロは人が思い描くよりずっと優しく、ユーモアに富んだ紳士だった。職人として最高峰でありながら、ひとりの人として実にたくさんの友人を持っていた。
ナポリのサルトリアでレナートを悪くいう職人はいない。
そしてその後を継いだのが、エンツォとロベルトの兄弟である。この兄弟は父レナートから人生そのものを学んだ、正当な後継者たちである。
彼らはいくつかのナポリのサルトリアのように1代目の名声でビジネスに熱中してしまう2代目とは違い、本物の職人たちである。早朝から家を出てサルトリアに通い、半地下の工房で黙々と他の職人たちと服を縫い続ける。
2代目に引き継がれたサルトリア・チャルディはより世界中で愛されるようになっている。今では華やかな印象さえあるほどだが、その中身は変わらない。以前レナート・チャルディがしていたのと同じように、針と糸とハサミで、コツコツと服を仕立てているのであえる。