職人の権化のような男である。
ジャンニ・ピッチリーロはルイジ・ダルクオーレがまだドゥオモ通りに工房を構えていたときに、長くにわたってルイジ・ダルクオーレの右腕として活躍していた。1990年代には金のはさみ賞も受賞した驚くべき経歴の持ち主である。
しかしジャンニ・ピッチリーロは生粋の職人だ。
いくつか作業をしてはジャケットを持ち上げて出来を確認し、作業に戻ったかと思うとまた出来を確認する。気に入らなければ何度でもやり直すし、うまくいったら一人納得がいったかのように頷いている。
驚くべきほどの職人技を持ち、なろうと思えばナポリ屈指の高級サルトリアを目指すこともできるマエストロである。それなのに、美しいスーツが仕立てられればそれでいいと考えている。ジャンニ・ピッチリーロのそんな性格が、ナポリの紳士たちを惹きつけている。
結婚式の季節になれば、工房はタキシード一色になってしまう。ほとんどがローカルな顧客の注文だからだ
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